季刊誌残響

第七号/二〇二六年 夏/特集「残す仕事」

第五号 / 特集 夜の記録

夜間バスの運転席

終バスのあとにも走る便がある。運転席の脇に置かれた手帳を見せてもらった。

透北窓 透2026年3月28日2分

深夜便の始発は零時十分。車庫を出るとき、車内灯はまだ落としてある。乗るのは、駅前の店を閉めた人と、工場の交代が終わった人だ。

秒で書かれた手帳

運転席の脇に、小さな手帳が挟んである。停留所の名前の横に、到着の秒数が細かく書かれていた。時刻表の分単位より、ずっと細かい。

書き足すのは月に数回。工事で迂回した日、雨の日、祭りで人出のあった日。条件の違う夜が、別の列として並んでいる。

夜は道が空くぶん、早く着きすぎる。待つ場所を決めておくと、乗る人が慌てない。

深夜便の運転士

早着は事故ではないが、良いことでもない。バス停で待つ人の前を、定刻より前に通り過ぎるわけにはいかない。手帳は、その調整のための記録だった。

終点までの明かり

終点の団地に着くころ、空はまだ暗い。降りた人が階段を上がる音だけが残る。運転士は車内を一度見て回り、忘れ物の有無を確かめてから車庫へ戻る。

忘れ物で多いのは傘と、名前の書かれた作業帽だという。帰りの便で持ち主が乗ってくることもある。夜の路線は、同じ顔が何度も戻ってくる。

車庫に入れたあと、手帳の数字を清書する。翌日の担当が読める字にしておく。深夜便の記録は、そこで初めて他人のものになる。

透

北窓 透

記者 / 金沢

街の記録を追う。取材の録音は文字に起こしたあと一晩置き、翌朝に修飾を落としてから送る。

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