第七号 / 特集 残す仕事
夜の編集室で、季刊を組む
一冊にまとめる作業は、足すことより引くことに近い。入稿の前夜、目次の順番が決まるまでを編集室から記録した。
残響の編集室は、ビルの四階の奥にある。窓は西向きで、日没のあとに青い残りが机へ落ちる。その時間帯に、今号の目次を決めることが多い。
四階まではエレベーターがない。取材から戻った者が階段を上がる音で、誰が帰ってきたかがわかる。扉が開くより先に、その夜の席順が決まっていく。
今号の特集は「残す仕事」だった。書店、工房、港の図書館、手紙を書く人。取材メモは厚く、写真は撮らない方針なので、言葉の密度だけがページを支える。
引くための夜
今号は最初、十四本あった。二度の会議で九本になり、最後の夜に八本になった。落ちた六本は次号の候補へ回す。捨てたのではないと言えるように、別の箱を用意してある。
寄稿を足したくなる夜がある。面白い一文、切れのよい見出し。それでも、余白を潰すと誌面は息ができなくなる。引いたあとに残ったものだけを、読者に渡す。
余白は、読者が息をする場所です。埋めた分だけ、読む速度が上がってしまう。
余白の話をすると、決まって誰かが惜しいと言う。惜しいのは紙ではなく、読者の時間のほうだと青野は返す。年に四回しか会えない相手に、詰め込む理由はない。
校正は二人で回す。一人が音読し、もう一人が紙を見る。誤植はもちろん、リズムの悪い文もここで落ちる。声に出すと、画面では見えなかった凹凸がわかる。
目次の順番
終電の一本前に、青野は目次の順番を入れ替えた。巻頭を書店の話から編集室の話へ移す。読者が最初に触れるべきは、この雑誌がどこで組まれているかだと考えたからだ。
順番を変えると、同じ原稿でも意味が変わる。特集の主張は、一本ずつの文章ではなく、並びのほうに宿っている。入れ替えは入稿の直前まで許している。
ノンブルは組み替えれば直る。直らないのは、読み終えたあとに残る順番の記憶のほうだ。だから最後の三十分は、本文ではなく目次だけを見る。
入稿は翌朝十時
最後の確認は、表紙の号数と奥付の発行日。ここを間違えると、書店で並ぶ棚が変わってしまう。二人で声に出して読み合わせ、確かめた行に鉛筆で丸を付ける。
夜の編集室には、まだ茶の匂いと、鉛筆の粉が残っている。季刊は年に四回しか出ない。その少なさが、一冊の重さになっている。