第六号 / 特集 手を動かす
紙の在庫と、季節
紙を動かす判断は、原稿が決まるより先に来る。梅雨の二週間前、印刷所の倉庫を訪ねた。
結青野 結2026年5月23日2分
印刷所の倉庫は、工場棟の北側にある。直射を避け、フォークリフトの動線だけが白い。棚札には銘柄と入荷日、そして目標湿度が書いてある。
同じ銘柄でも変わる
残響が使う本文紙は、冬と夏で同じ銘柄でも手触りが変わる。湿気を吸うと墨がにじみ、乾燥すると静電気で揃いにくい。季節の移動は、紙の移動でもある。
担当の倉田は、梅雨の二週間前に今号の分を空調の安定した部屋へ移す。編集が原稿を確定するより早い。遅れると、印刷日を守れない。
移す量は、前年の実績から決める。多く積むと下の紙が潰れ、少なすぎると刷り直しが利かない。棚札の余白に、去年の判断が鉛筆で残っている。
紙が部屋に慣れるまで待つ時間も、工程のうちです。
在庫表は二重に持つ
私たちはしばしば「中身」だけを仕事だと思いがちだ。実際には、紙が部屋にいる状態が、誌面の印象を先に決めている。
倉田は在庫表を紙で持っている。画面もある。二重なのは、停電のときと、現場で手袋をしたまま見るときのためだ。
帰りに、来年の紙の話を少しした。銘柄が一つ廃番になるらしい。近い手触りの候補を三つ、いまのうちに刷って比べておくことになった。