第七号 / 特集 残す仕事
駅前の書店が残しているもの
四十年、棚の並びを変えない店がある。駅前の再開発のなかで、その配置だけが動かずに残っていた。
北口を出て三分。看板の文字は薄れているが、ガラス戸を開けると紙の匂いが先に来る。店主は四十年、同じ棚の並びを守ってきた。
足が覚える配置
新刊台は入口の右手。文庫は奥。雑誌は窓際。地図を持たない客でも、足が覚える配置だ。入れ替えは季節ごと、しかも一棚ずつしか動かさない。
棚を動かす日は、前の晩に紙で図を描く。どの棚が何センチ寄るかを決めてから、翌朝、開店前の一時間で終える。客が来る時間に、店が工事中であってはいけない。
全部を新しくすると、常連が迷う。迷わせないことは、店の礼儀でもある。
レジ横には、店員が手書きした今週の三冊がある。書評ではなく、誰に渡したいかだけが書いてある。短い文なのに、客はそこで足を止める。
三冊のうち一冊は、必ず十年前の本を選ぶ。新刊だけを勧める店は、新刊の出ない週に何も言えなくなるからだという。
再開発のあと
駅前の再開発で隣の建物は新しいホテルになった。書店の家賃は上がり、在庫は絞られた。それでも閉店の札は出していない。
近くの同業は、この五年で三軒閉じた。閉じた店の常連が、少しずつこの店へ流れてくる。増えた客の分だけ、棚はいっそう動かしにくくなる。
レジの後ろには、取り寄せの控えが束で吊るしてある。頼んだ客の名前と、渡した日付。渡し損ねた本は、いまのところ一冊もない。
残っている棚が、この街区の記憶になっている。何が売れたかではなく、何を置き続けたかが、店の輪郭を作っていた。