第七号 / 特集 残す仕事
手紙を書く人たち
遅い手段を選ぶ理由は、速さの反対側にあるとは限らない。便箋の店で、三人に聞いた。
沙紙屋 沙織2026年6月20日2分
便箋専門の店は、地下街の突き当たりにある。客層は意外なほど若い。誕生日、転勤、亡くなった人への返事。画面では送れない文がある、と三人とも言った。
残るものが欲しい
一人目は設計事務所の人だった。図面のやりとりは全部オンラインだが、クライアントへのお礼だけは手書きにする。残るものが欲しい、という言葉をそのまま使った。
二人目は大学生。友人の引っ越しに、短い手紙を添える。写真は送らない。文章だけが届くほうが、相手の部屋に置きやすいからだという。
便箋は薄手を選ぶ。厚い紙は封筒の中で立ってしまい、受け取った側が置き場所に困る。そこまで考えて選ぶ人が、この店には多い。
返信は短くていい、と決めてから十年続きました。
三人目は七十代の女性で、孫への月一通を続けている。書く側の習慣を、読む側に強制しない。その線引きが、続いた理由に見えた。
棚は今の面になる
店主は在庫を多めに置かない。紙は湿気を吸う。季節ごとに入れ替えることで、棚は常に今の手紙のための面になる。
夏は薄い色、冬は少し厚い紙がよく出る。手紙の内容までは聞かないが、季節と紙の選び方には、はっきりした傾向があると店主は言った。
帰り際、封筒だけを買っていく客がいた。中身はもう書いてあるらしい。書いてから包みを選ぶ順番も、この店では珍しくない。